金 曜 日 の 食 卓

予 感発 熱新入社員涙の味ストロベリー・レシピ会 議



新入社員
 俊雄は誰もいない会社で一人煙草を吸いながら、今日一日のことを振り返る。

 新入社員の美保がしでかしたミスの処理を今終えたところだ。
 忙しくてイライラしていた。おろおろする美保にきつくあたったかもしれない。

 ――ふと、自分が入社したての時、大失態をしてしまったことを思い出す。
 あの時、先輩が一緒に取引先に頭を下げに回ってくれた。嫌な顔一つせずに。帰りに二人で一服した煙草のうまかったこと。

 美保は、少しおっちょこちょいなところはあるが、何にでも一生懸命で、決して美人ではないが、笑うとかわいい。
 失敗して青ざめて、必死で俊雄の指示する通りに失敗を取り戻そうと黙々と頑張っていた。
 気の毒なくらい恐縮して、迷惑をかけた人たちに頭を下げていた。
 あとはやるから帰れ、と俊雄が言うと、最後までやります、と美保は言い張った。
 お前がいてもどうしようもない、と言ってしまった。泣きそうな顔をしていた。

 言いすぎたと思う。明日は少しやさしくしてやろう。
 煙草の火を消し、帰ろうと立ち上がった時、遠慮がちにドアが開いて、美保が顔を出した。

「どうした? まだ帰ってなかったのか」
「途中まで帰ったんですけど……。やっぱり気になって、引き返してきたんです」
 美保はまっすぐ俊雄を見て、言った。
「私にできることがあったら、何でもやらせてください」

「……もう済んだよ」
 俊雄は笑って言った。
「え……」
「何とかなったから、もう気にすんな」
「ありがとうございました! ご迷惑かけて、どうも申し訳ありませんでした」
 美保は腰を垂直に曲げて深々と頭を下げた。
「もういいって。“人間のすることなんだから、まちがいの一つや二つ、あって当然だ”」
 先輩の受け売りだけどな。俊雄は胸の中でつぶやく。

「……あ、あの、私、天丼買ってきたんです。夕食まだかと思って。よかったら食べてください」
 美保が手に持ったビニールの包みを差し出した。
 香ばしい油のにおいがぷんと香る。

「ああ、なんかイイにおいがすると思った。よし、じゃそれ食って帰るか」
「じゃ私、お茶入れます……!」
 俊雄の言葉に美保はぱっと明るい表情を見せ、パタパタと給湯室の方へ駆けていった。

(2000.11.4)





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