INDEX 



 女王のピラミッド

バイオリン
Violin
【レベル】1、【発音】va`iэli'n、【@】バイオリン、【変化】《複》violins、【分節】vi・o・lin
【名】 バイオリン(奏者{そうしゃ})


 名は体をあらわす、というのに似て、楽器と人のイメージは不思議とリンクする。
 楽器が人を選ぶのか、人が楽器を選ぶのか。
 たまには「この人がこの楽器?」というギャップもあるけど、大抵は何かしら「納得!」という部分をみんな持っている。

 オーケストラの花形と言ったらやっぱりヴァイオリン。
 打楽器の登場しない曲は数あれど、ヴァイオリンの登場しない曲は少ない。
 中でも第1ヴァイオリンのトップ奏者はコンサートマスターといって、そのオーケストラの言わば顔となる。
 音楽を聴きに来たお客さんが唯一一個人として認識するのは、(他の楽器に特別なソロが無い限り)指揮者とコンサートマスターだけのような気がする。

 この楽団のコンサートマスターは女性なので、コンサートミストレス、と言う。
 私がコンサートミストレスを見たのはこの楽団がはじめてだし、女性の場合そういういい方になるということさえ知らなかった。(もっともクラシックなんてまともに聴きはじめたのはこの楽団に入ってからなので、サンプルは非常に少ない)
 由紀先輩は、華やかなヴァイオリンそのものの人。ザ・ヴァイオリン。
 3歳からはじめたというヴァイオリンの腕前は、私のような素人が見ても構え方だけでただならぬものとわかる。
 目がぱっちりとした美人で、細くて華奢な体つきなのに弓の運びはシャープで力強い。その姿には同性の私でも見とれてしまう。
 楽器を持たない時は特別な何かがあるようには見えないのに、ステージに立つ時はみんなと同じ黒い服を着ていても華があって、明らかに特別なオーラを発している。
 ちょっと長めのソロなんてあろうものなら、由紀先輩のソロリサイタルにさえ見えてしまう。
 由紀先輩が弾くのはヴァイオリン以外にありえない。

 あんな風に胸を張って堂々と楽団の頂点に立つことができるのは、並み居るヴァイオリンの中でも選ばれた一人だけ。
 私の中のイメージでは、ヴァイオリンは女王と働き蜂。
 女王か、さもなくば働き蜂か。その差は大きい。
 努力してどうにかなるとかそういうものじゃなく、生まれ持っての才覚と実力と巡り合わせが全てを決する。
 トップアイドルになるか、普通の芸能人で終わるか、そんな感じ。
 そう考えると、女王に従い一糸乱れぬ働きを見せる彼らの背中がけなげに見えてくる。
 その働き蜂も、それぞれの実力や立場でちゃんと席が決まっているようだ。
 指揮者に一番近い最前列に座るのは実力者であることとか、二人で並んで共有する譜面をめくるのは、客席から見て内側に座っている人が請け負うのが暗黙のルールだとか。
 実は細かい階層に分かれたピラミッド社会なのだ。
 優雅に見えて結構厳しい世界だ。

 彼らと違って曲中に譜めくりが必要なことなどほとんどなく、手持ち無沙汰な待ち時間が断然長い打楽器は、そんなどうでもいいことを考えながら他の楽器を眺めている。
 ヴァイオリンが趣味って言えるなんてかっこよくていいなあ、と憧れはするけれど、こんな風に一番隅っこに下がって全体を観察している方がやっぱり私には合ってる、と思う。





<< BACK     NEXT >>

MOMO'S WEB DESIGN
mo_memory Ver2.00


photo: H2O2
English>Japanese:SPACE ALC - 英辞郎 on the Web