冷蔵庫のある風景






 私にとって彼は親友で、恋人だ。

 世紀の大失恋をした私を、彼は慰め、励ましてくれた。



「それほどいい男でもなかったし」

「甲斐性もないし、別れて正解だよ」

「なんならいい男紹介するよ」



 別れた人のことを悪く言う女友達と違って、彼はただ黙って側にいてくれた。



 あの人は、私が留守の日に、夜逃げのように荷物ごとどこかに消えてしまい、がらんとした部屋で

私は彼と二人、リノリウムの冷たい床に足を投げ出して、一日中ぼんやりと時を過ごす。

 彼の体はひんやりとして、お腹に頬をつけるととても気持ちがよかった。

 彼の歌う低いハミングが、私をとても落ち着かせる。



 喉が乾くと、彼は私に冷たい牛乳をくれた。

 お腹が空いたら、リンゴ。

 丸ごとかぶりつく。

 だんだん、元気が出てきた。



 チーズ。

 セロリ。

 チョコレート。

 プリン。

 2日前に冷凍したごはん。

 アイスクリーム。

 餃子。

 苺のショートケーキ。



 まるでドラえもんのように次々と要求するものが差し出される。

 私の好きなものを、彼は熟知している。



 すっかり傷が癒えた頃には、体重は10キロも増えていた。

 今や彼は悪友だ。

 次の恋を探すためには、彼との関係を考え直さなければならない。




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