「細殿に不つりあいな人が夜明け前に傘をさして出ていった」

と誰かが言い出したのを、よく聞いてみたら自分のことだった。

彼は地下の身分とはいえ、ちゃんとした人で、

とやかく言われるような家柄の人でもないのに

変なことを言うもんだな、と思っていたところへ、

使いの者が宮からのお手紙を持ってきて、

「返事をすぐに」とおっしゃったと言う。

何事だろうと見てみると、

大きな傘の絵を描いて、人の姿は見えず、

ただ傘を持つ手だけがある。その下に、



  山の端明けし朝より



とお書きになっている。

ちょっとしたことでさえ

ただもうすばらしい方だとご尊敬して、

恥ずかしくて顔向けできないようなことは

絶対にするまいと思っているのに、

このような嘘の噂を出してしまって申し訳ない。

でもおもしろくて、別の紙に、

雨をたくさん降らせた、その下に、



  ならぬ名の立ちにけるかな



さて、これで濡れ衣ということになりましょうか、

と書いてお返事申し上げたら、

右近の内侍などにお話しして、お笑いになった。



細殿は、清少納言たち女房が寝起きしていたところ。社員寮と思っていただければ。(そうか??)
地下の身分、というと、殿上に上がることを許されない人、つまり殿上人じゃない人、ということです。
当時は完全に階級社会だったのです。
今で言う芸能人と一般人のスクープってとこでしょうか。(笑)

あ、連歌の訳。(かなり意訳)
「誰かが傘をさして出ていったその朝から」「思わぬ噂がたってしまいました」