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 ドレスコード

服 この楽団では、夏と冬で女性のステージ衣装が違う。
 夏は白いブラウス、ボトムスは黒。冬は上下とも、黒。靴は黒のパンプス。
 おそらく夏は真っ黒だと暑苦しいからそういう選択をしたのだと思うけど、演奏会の写真を見る時に女性の服装を見れば季節の判別がつくのが便利だ。

 ほとんどの人は例のひきずりそうなほど裾の長いスカートを着用する。
 色は決まっていても形に規定はないため、スカートにもいろいろある。
 ウェストから裾までまっすぐなスレンダーなものとか、ワイヤーが入って裾の広がったものとか(これを着用していたのは由紀先輩だけなので、コンミスの特権だったのかもしれない)、チューリップを逆さにしたように裾だけが広がったマーメイドタイプとか。

 曲中に立ったり座ったり移動したり、が多い打楽器だけは、代々先輩からのアドバイスで動きがとりやすいようにパンツを選ぶことが多い。
 確かに本番中に慣れないパンプスで歩いて裾を踏んづけて音でも立てたら一大事なので、私も黒のパンツを愛用していた。
 パンツだと普段も使えて実用的なのがお得だ。
 本番後に楽器を急いで片付けてトラックに搬入しなくてはならないため、万が一楽屋に戻る時間がなくても着替えずにそのまま帰れる、という保険にもなって安心できた。
 坂井先輩はプログラムと担当楽器によって服を選んでいて、メインの曲でティンパニを演奏する時にはスカートにしていた。曲中に靴を脱いでいられるからだ。
 私自身、ティンパニの高めの椅子に長時間腰掛けていてヒールをひっかけてつんのめりそうになったことがあり、それはナイスアイディアだと感服したけど、そのために今更スカートを買うのも気が引けるので未だに試してみたことがない。
 それから私は、お守りとして、真珠のピアスとおばあちゃんの形見の真珠のネックレスを必ず着ける。結構縁起をかつぐ方だ。

 演奏会の前になると、女性陣は必ず自分のスカートの試着をする。
 年に2回の演奏会は、年頃の女の子たちにとって「ウェストチェック」のタイミングでもある。
 ウェストはゴムでも伸びる素材でもないので、同じ体型がキープできなければ、ボタンの位置を変えたりして加工するかサイズの違うものを新たに購入するしかない。
 冗談めかして笑って「やばい、ちょっときつくなってたよ」とか言いながら、内心かなりショックを受けていたりする。複雑な女心が見られる時期でもある。

 男性は、夏でも冬でも、黒の上下に白いネクタイ。
 彼らは打楽器のパンツ以上に実用的で、ブラックスーツを使うので、学生なのに冠婚葬祭に困らない。
 本番真近の楽屋は、まるで結婚式直前の待合室のようにも見える。
 いつもTシャツにジーンズとかかなり適当な服を着ているのに、一人残らずきっちりよそいきの格好に変わる。
 特に男性陣は、同じ服装であるがゆえに、普段以上に見た目の年齢差がはっきりしてしまう。
 同じ学年の男の子二人に、「花婿と、花嫁の父、って感じだね」と率直な感想を述べたら、「花嫁の父だとォ?」と一人に首をしめられた。ごめん。





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