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 1/100の孤独

メトロノーム
Percussion
【発音】pэ(r)kΛ'∫n、【@】パーカッション、【分節】per・cus・sion
【名-1】 《音楽》打楽器{だがっき}
【名-2】 衝突(音){しょうとつ(おん)}、震動{しんどう}


 いつものことながら、打楽器は孤独な楽器だと思う。

 シンバルやティンパニ、スネアドラムは自分でも確かにウルサイと思うし、そういう楽器の練習をする時は人に迷惑をかけないように気を使わなくてはいけないと自戒している。
 今日はパート練習の日でパート毎に場所を確保して練習しているのだが、部屋数が足りなくて他の楽器の部屋の片隅を間借りした。
 チェロとフルートがいる部屋だったため、遠慮して基礎打ち(ゴムを貼った板をドラムスティックで叩く地味な基礎練習)をしていた。楽器を使わないんだから実におとなしいものだったのに、板を刻む音でメトロノームに集中できないという理由で立ち退きを迫られたのだった。
 確かにごもっともな意見だし、常に謙虚であらねばならない、とは思うものの、なんだか理不尽な気もしないでもない。

 仕方が無いので校舎の外側の非常階段の前を陣取り、生い茂るケヤキの葉に雨の雫がそぼ降る様を眺めながら、メトロノームに合わせて16分音符を刻む練習をはじめたところだ。
 すっきり晴れた日にやさしい風に吹かれながら,、だったらいいけれど、このところの長雨には飽きたし、じめじめしたぬるい空気じゃやる気も萎えそう。

 他のメンバーは、といえば、それぞれ思い思いの場所で、ばらばらの方角を見て、同じように一心に板を叩いている。
 こういうのって他の楽器の人からは異常に見えるらしくて、「楽しいの?」ってよく真剣に尋ねられる。こっちからするとつまらないと思ったことがないので、その質問自体が謎なんだけど。
 今日はもっと速いテンポに挑戦、とか、逆にめちゃめちゃ遅いテンポにどれだけ正確に合わせられるか、とか、複雑なリズムに挑む、とか、やることはいろいろあって、自分に課した勝手な目標を一つずつクリアできるのがうれしかったりする。
 自分が疑問に思ったことがないので打楽器の他のメンバーにきいてみたこともないけど、たぶんみんな同じだと思う。
 こんなことですら、他の楽器からはなかなか理解を得られない。

 弦でも木管でも金管でもなく、どこにも属しない、独立したパート。
 しかもその小さなグループの中でも同じ曲中でそれぞれが違う楽器を請け負い(例外的な曲はあるものの)、違う動きをしている。
 ちょうどこの練習風景が打楽器というパートの全てを表していると言える。
 なんて孤独な私たち。

 孤独、とは言っても、私たちはこのパートに満足しているし、他の楽器からの無理解にも甘んじる。
 だって100人もいるオーケストラの中でオンリーワンの存在なんておいしすぎるもんね。

 メトロノームが刻むテンポを聴くうちに突然思いついて、
「世界に一つだーけーのはーなー、一人ひとーり違う種をーもつ」
と私が歌いながら裏打ちをはじめたので、みんなが手を止めて振り返った。
「急に、どうしたの?」
 おかしそうに果歩ちゃんが笑った。
「その花を咲かせることだーけに」
「一生懸命になればいいー」
 思い思いのリズムでスティックを叩きながら、2年生のヤマちゃんも水野さんも歌いだして、果歩ちゃんもすぐに加わった。
 16分、8分、シンコペーション、なんでもあり。
「NO.1にならなくてもいい」
「もともと特別なOnly one」
「いえーぃ」
 ほーらね。別々のリズム叩いててもちゃんと一つのものになるでしょ。

「なんか楽しそうだね」
 濡れた傘を片手に楽器ケースを背負って階段を上ってきたバイオリンの高津先輩が笑った。
「こんにちはー」
「楽しいですよー」
 私たちはにこにこして胸をはり、ひとしきり笑った後で、再びそれぞれの課題に戻っていった。





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